猛毒のトリカブトについて
トリカブトは「鳥兜」または「鳥冠」の由来名を持ち、これは花の形が舞楽で被る帽子の鳥冠に似ている事から、この名称が付けられた。英名ではmonkshood(僧帽)の名を持ち、修道服の帽子からの発想である。
 トリカブトの分布は、本州中部以北に多く生息し、また北海道の山野に自生する多年草である。

 一方トリカブトは、全草が有毒であり、特に地下の根の部分は毒性が強く、まつて勇猛を馳せた十勝アイヌは、この地方の毒性の強いオクトリカブトとトウガラシを微妙に調合し、十勝石の矢じりに矢毒を塗り、熊などを捕獲する術を会得し、またこの矢毒をもって、蝦夷地に君臨した。

 トリカブトの毒性の利用は、古代ヨーロッパでも盛んに用いられ、トリカブトのエキスを槍の穂先きや矢じりに塗り、これで戦った記録が残っており、戦略的には敵陣の井戸や川などの飲料水用の水の中に投げ込んだりした。

 こうした歴史的なトリカブトの遣われ方は、この植物に猛毒を含んでいる事から戦いや大型動物を捕獲する為に用いられた。
 これを薬効的に見ると、トリカブトの根は漢方ではなくれはならぬ重要な薬物であり、体力の衰弱した者への強心薬や鎮痛薬として素晴らしい効果を発揮した。また、根の新旧や形によって、鳥頭、附子
(ぶし)、天雄(てんゆう)などと区別され、その猛毒については漢方医といえども細心の注意を払ったものである。特に熟練が必要であり、附子の処方に熟達する事が漢方の名医の条件とされた。
 このトリカブトの花言葉は「人間嫌い」である。

 キンポウゲ科の猛毒を持った植物にトリカブトがあります。
 トリカブトは全国の山地に生える多年草で、高さは約1m程になり、深く切り込んだ葉が特徴です。この植物はニリンソウと間違い易く、秋になると紫色の花を咲かせます。

 この植物の形的な特徴は、地面下の部分が指先くらいの小さな株のような形をしていて、ここに薬効成分が含まれていますが、一般にはこの処理法は知られていない為、これをうっかり口にしますと、大変な中毒症状に掛かるので要注意です。
 また、茎や葉にも猛毒成分があり、かつてアイヌの人達は、株根や茎や葉の部分から毒矢を作り、熊狩りをしたと言われます。この強力な毒成分は、茎や葉にも含まれているので、うっかり食べれば大変なことになります。


 更に三国志に出てくる関羽かんう/三国の蜀漢の武将。字は雲長)は、敵のトリカブトで作った樹液の毒矢を腕に受け、もう少しで命を失うところでしたが、名医の華佗かだ/字は元化)に救われ、一命を取り留めました。
 華佗は後漢末・魏初の名医で、麻沸散(麻酔薬)による外科手術を得意とし、他にも五禽戯と称する体操などを発明して有名になった人物です。三国時代、曹操の侍医になりましたが、のち殺されてしまいました。華佗はトリカブトの猛毒成分の秘密を識(し)り尽くしていた為だと言われます。

 トリカブトには、その毒成分にアコニチンを主体とするアルカロイドがあり、この物質は中枢神経を麻痺させ、生命を奪うに充分な毒性を持っています。
 このトリカブトを「秘伝書」にしたものは、日本では平安末期に入って来て、その薬効成分や猛毒成分は武士階級の「術」として遣われるようになりました。

 日本に入って来たトリカブトは「鳥兜」と言う字が当てられ、塊根を乾したものは烏頭(うず)または附子(ぶし)といい、「猛毒であるが生薬とする。同属近似の種が多く、それらを総称することが多い。種によって薬効・毒性は異なる」と、書言字考節用集『草烏頭(トリカブト)』には記されています。

 アコニチン(aconitine)は、キンポウゲ科トリカブト属(属名アコニトゥム)の根に含まれる毒性の強いアルカロイドを含有します。白色の結晶を持ち、哺乳動物の中枢神経を麻痺させ、呼吸麻痺を引き起す末梢神経をまず興奮させ、のち麻痺させます。
 またアルカロイド(alkaloid)は主に高等植物体中に存在する、窒素を含む複雑な塩基性有機化合物の総称です。
 こうした高等植物体中には、ニコチン・モルヒネ・コカイン・キニーネ・カフェイン・エフェドリン・クラーレなど多数のものが知られています。麻薬として知られる罌粟(けし)もその一つで、植物体中では多く酸と結合して塩を形成し、少量で、毒作用や感覚異常など特殊な薬理作用を呈し、毒性を持つ植物塩基のことです。

 こうした植物から、日本では様々な武器と共に毒薬が作られました。
 かつて天皇の忍者として夜を暗躍した「風魔一族(ふうまいちぞく)」は、月夜の晩、こうした毒と秘密武器をひっさげて、暗殺集団として恐れられました。

 まず、トリカブトの毒性から検(み)ると、アコニチンはトリカブト毒で、猛毒中の猛毒。半数致死量がキログラム当たり0.3ミリグラム。かつてのヨーロッパでは、毒殺薬の花形とされていました。

トリカブト。キンポウゲ科の植物で、全国の山地に生える多年草。生長すると約1m程になり、深く切れ込んだ葉が特長ある形をしている。地下には、指先くらいの小さな株を持ち、根茎が二つ並んでいて、春先のその片方から新芽を出す。秋には、梢上に美しい紫碧色の花を咲かせる。葉の形はニンニクソウと間違え易い形をしているので、間違えて採取することがあるので要注意である。

 種によって薬効・毒性は異なりますが、アコニチンはトリカブトの根から抽出します。トリカブトは、日本全土の林の縁や川筋、あるいは陽陰の湿地帯などに自生しています。アコニチンから抽出されたトリカブトの猛毒は、脳・延髄・脊髄を刺戟して、知覚神経を麻痺させ、窒息死にいたらしめる猛毒です。この猛毒を持つトリカブトは、山岳地帯に入って採取すれば、何処ででも、誰にでも入手出来ると言う至便さがあり、こうした薬草や毒草に関して知識のある人は、ある意味で、人間の生命与奪を智慧(ちえ)として所有していることになります。

 さて、トリカブトを間違えて採取する事も少なくありません。特に春先などになると、山菜採りでニンニクソウやモミジガサなどと間違え、摘んでしまう例が多いようです。
 トリカブトの毒成分は、アコニチンを主体とするアルカロイドで、中枢神経を麻痺させ、生命を奪うと言う猛毒であるので、充分に注意が必要です。

 一方、トリカブトの持つ猛毒は、忍者集団・風魔一族の暗躍からも分かるように、武術の「術」としてこれが遣われて来ました。
 もともと武術は、孫子の兵法に則った「詭道(きどう)」です。人を欺くようなやり方こそ、兵法の奥儀なのです。
 孫子曰く、「兵は詭道なり」と申しております。武術は、その根本に人を殺傷することを主体においた「殺しの術」ですから、古来より、こうした事が研究され、術としての智慧が、各流派に秘伝として残されています。

 「仏のウソを方便といい、武家のウソを武略と言う」と云ったのは、明智光秀ですが、この武略の根本は、詭道と言う非情な手段が武術に用いられ、この智慧により、片方は死に、もう片方は生き残ると言う現実を生み出しました。したがって、武術家は単に、スポーツ的に激しい練習を繰り返し、あるいは筋力的な筋肉トレーニングだけの体力を養うだけでなく、古人が智慧として残した「術」も身に付けていかなければなりません。当然「智」の部分が必要になって来るのです。

 かつて武術の鍛練場は、多くが、山岳地帯を主体とする、山岳修行でした。山岳修行を、「山稽古」という言葉で呼びました。山岳を歩き、あるいは疾(はし)り、己を厳しく律して修行を積み重ね、また同時に大自然から、大いなる智慧を学んで行くことを、その修得科目としていたのです。

 野や山を駆け巡り、多くの動植物から、大自然への「畏敬の念」を学んで行ったのです。この畏敬の念を以って、山菜・食用果実・薬用植物・染料などを学び、これを利用して来たのです。そして此処で、古人が学んだ事は、植物の中には、植物達が自然に創り出した、様々な化学物質や薬用成分が含まれていて、人の健康に役立つ一方、またそれは、人を致死にいたらしめると言う智慧の修得でもありました。

 ここに古人の集積した智慧が、一方で健康増進に繋がり、一方で人を簡単に殺傷してしまうと言う、殺法と活法を同時に学ぶ「術」を研鑽したのです。
 これはトリカブトに限らず、私たちが日常よく知っている食用植物にも、「毒」の名の付くものは多くあります。喩えば、春先になると良く出回る、ワラビなどです。山菜としてのワラビは、食用として用いられますが、この中には発癌物質が含まれています。含有量は少量と言われますが、調理法を間違えば、こうした物質は体内に蓄積され、やがてはガンとして発病します。

 このように、数多い草木の中には有害な成分を多く含み、少量でも体内に入れば、生命に危険の及ぶ植物が何種類かあるのです。
 植物は一方で、食用として用いられ、健康を増進させていくものですが、他方において命取りになる危険な物もあり、大自然は人間に殺法と活法の両方を、同時に見せ付けているのです。
 そして私たちの学ぶことは、生命与奪の武器は単に刀や槍などの武具のみでなく、毒草も立派な武器であると言うことを知っておかなければならないのです。

戻る次へ