▲長岡藩家老・河井継之助（かわいつぐのすけ）。 　陽明学者として知られ、またナポレオンの戦術を研究した戦略家でもあった。

▲蝦夷国（えぞこく／現在の北海道）総裁・榎本武揚と旧幕府軍幹部。

	▲函館五稜郭。五稜郭は日本屈指の西洋式要塞である。

▲若き日の徳川慶喜
▲晩年の徳川慶喜。慶喜は欧米の正体を見抜き、直ぐに大政奉還して、謹慎に謹慎を重ね、西南雄藩と国家を二分する戦いは行わなかった。

　次に会津若松鶴ヶ城の攻防戦であるが、会津藩士が松平容保を中心にして戦った戦争であり、戦闘期間は約三十日間であった。 白虎隊の悲劇もこの時に生まれた。

　それらの戦争に比べて、長岡城とその近辺の市街戦は、長岡藩士及びその子弟や老人女性までが参戦して戦い、戦闘期間は約百五十日間であった。

　継之助は、曾（かつ）て、人にこのように語っている。
　「天下に無くてはならない人になるか、有ってはならぬ人になれ。沈香もたけ、屁もこけ、牛羊（ぎゅうよう）となって人の血や肉に化して仕舞ふか、豺狼となって人類の血や肉を啖（くら）い尽くすか、どちらかになれ」と、また「人間というものは、棺桶（かんおけ）の中に入れられて上から蓋（ふた）をされ、釘を打たれ、土の中に埋められて、それからの心でなければ何の役にも立たぬ」といっている。

　この事を近年の陽明学者、故・安岡正篤（まさひろ）先生は、その著書『英雄と学問』の中で、「誠は天の道であり、之（これ）を誠にするは人の道で有る。故に、人は私を去って誠に生きてこそ尊い。そこに自らの分もあり礼も有って、大義にも即し得るので有る。継之助の血誠至公は、天に通ずる。天下の大道廃れ、人皆仁義を言わずして利のみいふ時、天の命はまた其人の英霊を徒らにして置かないであろう」と評している。



●八月十八日の政変
　 薩摩藩の公武合体派は、保守派の公家や京都に於ける幕府勢力の中心であった会津藩と図り、三条実美（さねとみ）ら七名を参内（さんだい）に京都から一掃し、謹慎させた。
　これによって長州藩の宮内警備の任を解こうとしたのである。
　これが「八月十八日の政変」であり、三条実美（さねとみ）ら七人の公卿は長州に落ち、長州藩の尊皇攘夷派は京都から一掃されるのである。これが「七卿落ち」である。
　七卿落ちとは、文久三年（1863）八月十八日、三条実美・三条西季知（すえとも）・四条隆謌（たかうた）・東久世通禧（ひがしくぜちとみ）・壬生基修（みぶもとなが）・錦小路頼徳（にしきこうじよりとみ）・沢宣嘉（さわのぶよし）の七人の公卿が討幕計画に敗れて、官位を奪われ、京都を逃れて長州に落ち延びた事件である。これを「八月十八日の政変」という。

　八月十八日の政変によって主導権を握った幕府・公武合体派は、文久三年（1863）から翌年に掛けて、一橋慶喜（よしのぶ）、松平容保、越前の松平慶永（よしなが）、土佐の山内豊信（とよしげ）（容堂／ようどう）、宇和島の伊達宗城（だてむめなり）、薩摩の島津久光（斉彬の異母弟。兄の死後、藩主忠義の実父として藩政を掌握、公武の間に奔走・周旋し、維新後、左大臣に進んだが、欧化政策に反対、鹿児島に退隠。また「生麦事件」でも有名）らは雄藩大名による参預会議を成立させた。

　これは京都に於ける佐幕派の中心雄藩・会津藩と結んで、孝明天皇の攘夷宣戦を回避する為にとった政策であった。しかし、この会議も朝廷統制派と幕権強化派が対立するに至り、僅か二か月足らずで解散の止むなきを見る。これが原因で公武合体派の各大名は帰国し、幕府の権威は急速に衰退していくのである。

　そして各地には攘夷の嵐が吹き荒れ、これより先に、土佐藩士・吉村寅太郎らは「天誅組（てんちゅうぐみ）の乱」を起こして大和五条（やまとごじょう）の代官所を襲撃し、その年の１０月には平野国臣（幕末の志士で福岡藩士。国学に詳しく、有職故実に通暁。1858年（安政5）脱藩、京都で同志と国事に奔走した。北九州に事を挙げようとして捕えられ、のち生野銀山に挙兵して敗れ、京都で斬られた）の「生野（いきの）の変」、翌年に２月には水戸の藤田小四郎（幕末の志士。藤田東湖の四男。1864年（元治1）、同志と共に尊王攘夷を唱えて筑波山上に兵を挙げ、指揮者となる。事敗れ武田耕雲斎らと西上、越前敦賀で処刑）らが筑波山に立て篭った「水戸天狗党（みとてんぐとう）の乱」等が起こり、攘夷派の挙兵が起こり、七卿の免罪を嘆願した事件が、長州藩の指導的立場にあった久坂玄瑞（くさかげんずい）や真木和泉（まきいずみ）が自刃（じじん）するといった、「禁門の変（はまぐりごもん／蛤御門の変）」であった。

　しかし、今まで尊王派として対立していた、長州と薩摩が同盟を結ぶことで、王政復古は益々拍車が掛かる様相を呈した。



●大いなる東
　西郷頼母の熱烈なる尊王家ぶりを考えた時、著者は物部守屋（もののべのもりや）の家来であった捕鳥部（ととりべ）の萬（よろず）という勇者と重ね合せてしまう事がある。
　頼母の敗北の屈辱は、鳥羽・伏見の戦い、戊辰戦争、函館戦争、西南の役と続いている。そしてその足跡には悉（ことごと）く逆賊としての汚名が被された。それは遠い古の時代にまで遡（さかのぼ）る。
　崇峻（すうじん）天皇二年（589）七月、河内の国では熾烈（しれつ）な戦いが繰り広げられていた。

　『日本書紀』によれば、その当時の戦いを次のように描写している。
　「戦塵（せんじん）は今にも天に届き、将兵は雄叫（おたけ）び、軍馬はいななき、凄まじい弓矢の応酬で一大決戦が行われた」とある。

　当時の政局は蘇我氏（蘇我馬子／そがのうまこ）が穴穂部皇子（あほなべのみこ）や物部守屋らを制圧し、朝廷独裁体制が出現しかけた頃であった。圧倒的な優勢を誇る蘇我氏は政治力と物量作戦を駆使して優位に立ち、物部軍を窮地（きゅうち）に追いやり、窮する物部軍は身動きがとれずにいた。
　この時、萬の主人であった守屋は討ち死し、物部軍はこの戦に大敗を帰した。この敗戦の最中、萬はただ一騎で、旧領地であった和泉の国に落ち伸び、再び募兵を募って蘇我氏と最後の一戦を交えようと試みたが、募兵は思うようにならず、結局一人で戦う事になった。既に萬に従う兵はなく、彼一騎のみで奮戦する事になる。

　蘇我氏は「勝てば官軍」の喩（たと）えから天皇の軍となり、山に篭（こも）って一騎奮戦する萬に、「すみやかに輩（やから）を滅ぼすべし」という朝命が下った。
　萬の篭った山には数百の精鋭部隊がこれを包囲し、今にも総攻撃が始まろうとしていた。しかし、また萬の作戦も決死の覚悟に貫かれた見事なものであった。

　『日本書紀』には、「萬（よろず）、衣裳（きもの）弊（や）れ垢（あか）つき、形色（かお）憔悴（かし）けて、弓を持ち剣を帯きて独り自ら出て来れり」とあり、この直後、彼は勇戦する。
　その戦い方は緻密（ちみつ）な計算と巧妙な策が駆使されており、戦場に粗密を巡らせて敵を散々悩ませた。粗（そ／敵に姿を見せつける）なる処に、敵を誘い込み深追いさせて、敵の密なる部分を不意打ちで撹乱させて、近づくと見せかけては離れ、離れると見せかけては近づいた。

	▲孝明天皇。
	毒殺されたと言う説が大。孝明天皇は江戸末期の天皇で、仁孝天皇の第四皇子。名は統仁（おさひと）。熙宮（ひろのみや）。攘夷と公武合体を支持し、皇妹和宮（かずのみや）の降嫁を容認した。 　慶応二年十二月二十五日、病死したとされるが、毒殺された可能性が大きい。