入門について 4



●西郷派大東流を会得するには、それに相応しい人格と人間性と霊格が必要!

 では、何故このような厳しい段階を踏むのでしょうか。
 それは大東流の「秘伝」に大きく関わっているからです。

 秘伝とは、一種の「切り札」であり、この「切り札」は極秘に指導されるものです。一般に公開されず、極秘が極秘であるから、「切り札」なのです。「切り札」の秘密が公開されれば、これは極秘というものではなくなり、研究に対象にされてしまいます。誰にも研究されないからイザと言う時の「切り札」であり、極秘の意味は此処にあります。これを「秘伝」と称するのです。

 秘伝は素人が、幾ら一生涯かかって研究しても、簡単に解明でき、理解できるものではありません。したがって直接有能な指導者から儀法を教わる以外方法がありません。

 大東流は、一人の天才的な流祖などが、流派を開いたというものではなく、何百年もかかって、先人の様々な智慧(ちえ)や教訓が活かされて構築された、儀法三万儀(三万種に及ぶ技。単に技術的なものばかりでなく、方術なども含む)にも及ぶ膨大な秘伝から構築された武術です。

 これは今日のスポーツ格闘技やスポーツ武道とは異なり、ルールもなく、時空的な制約も規定もない、非常に危険な一面を携えている儀法から構築されています。また危険な儀法であるからこそ、実戦には有効であるといえます。

 したがって一般社会でこれを用いれば、非常に危険なものが多く、また大東流の高級技法ともなると、人間の生命の有無に関わる恐ろしい「術」が存在します。

 こうした術の教えを授け、これを正しく後世に伝える為には「それに相応しい人格と人間性と霊格」がものを言う事になり、その適性に欠ける人は、その教えを授ける資格がありません。

 また大東流合気武術は、江戸期において、会津藩では五百石以上の上級武士にしか、その伝授が許されていませんでした。御留流と称され、門外不出のものとして、極秘裏のうちに秘かに伝承されてきた特異な武術です。これを習得していくには様々な段階があり、段階ごとに古神道や真言密教の秘伝の印伝形式が設けられました。そして大東流は近年に至るまで、その儀法や存在すらも知られていませんでした。
 昨今は一部のマイナーな武道雑誌に大東流が取り上げられていますが、この大東流は柔術百十八箇条(これに類似したものは八光流の柔術百八箇条に同じ)と直心影流の表の型を合体させた大東流柔術というもので、大東流合気武術とは根本的に「次元の段階」で異なっています。型の保存では、実戦には役に立たず、旧時代の骨董品に成り下がります。
 ○○箇条というのは左右裏表の型に過ぎず、大東流合気武術は「合気」を会得するまでの、一種の修行法を示した方便に過ぎません。
 西郷派大東流合気武術では「合気は、合気揚げに始まり、合気揚げに終わる」と称されています。つまり「合気」の全貌は、この合気揚げに中に総て隠されているのです。したがってこれを徹底的に研究する事が、「合気」への糸口となるのです。また「崩し」の秘密もこの中に包含されています。
 そしてその闘龍門(とうりゅうもん)が、西郷派大東流では「入門審査」という、適合者と不適合者を選別する、まず最初の関門なのです。