●地下足袋登山について(1)

 
新田次郎の小説『孤高の人』には、「地下足袋の加藤」という登山家(プロの登山家ではなく、サラリーマン登山家)の話が出て来ます。実在の登山家、加藤文太郎の生涯を物語にした小説です。

 加藤文太郎は地元神戸の六甲山から北アルプス、夏山から冬山への単独登攀(とうはんn)と推移し、技術的にも経験的にも向上していった近代希にみる登山家です。
 しかし、その間、周囲の喧騒(けんそう)とは相容れず、自分の内面と向き合い「孤高の人」となっていきます。そして山での単独行動を究めていきます。

 彼は自分の内面と向き合い、孤高の人となり、「単独行」を旨としました。 しかし、そんな純粋な彼にふさわしい相手と出会い、結婚し、子供を持つに至り、今までと違う心境になるのです。

 そうした最中に、友人の誘いを断れず、生涯、一度限りの同伴登攀者として、冬の槍ヶ岳へ向かい、遂に遭難し、名峰槍ヶ岳の北鎌尾根を、冬季に、登攀中に壮絶な凍死をするのです。
 不死身と言われた彼も、遂に命を落し、伝説の単独登攀者となって生涯を閉じます。

 彼が単独登攀をはじめた時、「地下足袋の加藤」という異名をとっていました。そして、「地下足袋の加藤」が快速な足で、風のようにやってきて、風のように去って行くという、新田次郎の小説の描写は、何とも印象的でした。
 つまり、地下足袋でも登攀(とうはん)ができることを、加藤文太郎は証明したのです。ハイク程度の登山なら、一般の人でも、地下足袋で十分に事が足りるのです。



【地下足袋登山の効用】
 老化防止と足腰を鍛える為に、「洗心錬成会」では、地下足袋で福智山に登ります。地下足袋を履いて、足の裏の土踏まずや、「足心(そくしん)」の経穴を刺戟するのです。足の裏には経絡上に言う、「湧泉(ゆうせん)」と言う経穴(けいけつ)があるからです。

 更に地下足袋の効用賭しては、一般のハイキング・シューズや登山靴とは異なり、靴底が柔らかいので、足の裏の「足心」ならびに、その他の内臓に繋(つな)がる経脉(けいみゃく)を刺戟(しげき)し、内臓系を強健にするとともに、成人病などの内臓の病気を防止します。

地下足袋登山をして、タヌキ水まで辿り着いた「洗心錬成会」のメンバーたち。この日は、ここで「冷し素麺」をして、全員が夏場の一時の涼を楽しんだ。(平成19年8月14日午前10時半頃)



【地下足袋ファッションのご紹介】
 外国の武道オタクの人達からは、地下足袋は「忍者ブーツ」と呼ばれています。そこで、今日この頃の地下足袋ファッションをご紹介しましょう。

 さて、次の下の写真は、45歳過ぎの「100%オヤジ」と、思い切り若作りの「にいちゃん風」の35歳過ぎの中年男が、福知山山頂で何やら密々話で、猥談(わいだん)めいた話に耽り込んでいます。
 福智山は、オヤジや、三十半ばから、体力が下降線を辿る人でも、容易に登ることができる山なのです。

 彼等の地下足袋ファッションは、地味な「13枚小ハゼ」というやつで、基本的な忍者ブーツの原形です。このタイプは、鳶職(とびしょく)に多く愛用され、高い足場や屋根の上を歩き回るには最適ですが、水陸両様とは行かず、渓谷や沢登りには水が入り込んでい、地下足袋の下の軍足を濡らし、濡れた後はやや違和感を感じ、また足の全体が蒸れて、気持ちが悪くなるのが欠点です。また、足頸(あしくび)や膨(ふく)ら脛(はぎ)のデカい人は、総ての小ハゼが掛かり難く、ピッタリしていて万人向きではありません。

彼等は福智山山頂まで来て、下界を見らず、二人でにたつき、いったい何の話題に熱中しているのでしょうか。

 しかし、「13枚小ハゼ」は地味な中にも、「忍者ブーツ」としての威厳があり、山頂の岩場を木刀などを持って、剣術の修行をするには、持ってこいの履物です。こうした修行に地下足袋が良いのは、足袋底が薄い為に、足場の下の設置部分が足裏で探れると云うことです。

45歳過ぎの100%オヤジにも耐えられる「13枚小ハゼ」の忍者ブーツ。「ミスターにわとり」の異名を持つ彼は、地下足袋を履いて崖淵の上で御機嫌です。女より鶏が好きで、未だに独身です。
 しかし、「ミスターにわとり」といえども、飛べませんので、岩場での稽古は、絶壁から落ちないようにするのが要注意です。独り言のように、「決まった!」と連発するのが、「ミスターにわとり」の口癖です。彼の鶏の飼い方は、達人の域に達しています。
 別名「にわとり金太郎」の異名を持ち、特技は、藤山寛美の「ものまね」です。捩じり鉢巻きが、なかなかの「決まり」です。

 次にご紹介するのは、防水タイプの水陸両様の地下足袋です。このタイプは神奈川県小田原市周辺で販売されている特別限定品との事です。欲しい方は、小田原市まで出向いて下さい。箱根山に登る為の特別グッヅのようです。

神奈川県小田原市の特別限定の水陸両様地下足袋。木刀と地下足袋にセットで、おしゃれにコーディネートしてみました。色彩・素材・デザインなどの釣合いが、いかにも地味で、地下足袋と相性がピッタリです。
 彼も、45歳過ぎの100%オヤジの純血種です。同じく独身で、いまだに、彼女から、十八歳の時に振られた後遺症から立ち直れません。何となく、背中に哀愁が漂っています。

 このタイプの地下足袋は全体に防水加工が施してあり、足頸(あしくび)までくらいの深さの渓流であれば、中に水は侵入して来ることはありません。ただし、欠点は地下足袋の裡側(うちがわ)全体に通気性がないので、非常に蒸れるということです。

高齢者にも人気のある地下足袋ファッションで御満悦。黒と飴色のゴムのツートンカラーの切替が如何にもおしゃれでありませんか。 さて次は、若作りの「にいちゃん」の登場です。彼の得意とするところは、八相の構えから岩場で目一杯ジャンプするところです。



【山行きの地下足袋】
 山行きの地下足袋として、いろいろな物が考えられますが、適したものとそうでないものがあります。これまでいろいろな物を実際に履いて、山行きをしたところ、地下足袋にも向き・不向きがあることが判明しました。

 さて、下記の地下足袋は、お奨めの逸品として紹介しましたが、実際にこれを履いて福知山山頂まで登ってみて不具合が発覚しました。使用結果から次ぎのような長・短が顕われました。

地下足袋の全体像
地下足袋の裏側

 長所としては次の通りです。

これまでの地下足袋を凌駕(りょうが)した、鳶職(とびしょく)や土方の一般的な「13枚小ハゼ」を、更に抜きん出たワンタッチ地下足袋である。それだけに履き易い。
浅い渓流を渡る時などは防水性もよく、水の進入もなく、裏地が布なので、通気性もよく、爽やかに軽快に履く事が出来る。平地使用では、こうした面が発揮される。
(くるぶし)の処にスポンジの防禦部があり、この部分が守られている。誤って岩や石に踝をぶつけても、防禦になるものと思われた。

 しかしまた一方、短所として、山行きには次ぎのようなものが顕われました。

ワンタッチのマジックテープのハゼ止めである為、布地部分が全体的に硬く、足頸(あしくび)の運動を阻害する。足頸の曲がりが固定されてしまうのである。
布地が柔らかくないので、踵(かかと)を圧迫し、長時間使用すると踵の表面が擦(す)れて、踵骨を損傷する懼(おそ)れがある。福智山では登りと下りに始終苦しめられた。こうした履物内部の欠陥から起る、踵のズレなどは、糖尿病などの人は擦り傷の傷口部分が腐敗・融解を来し、壊疽(えそ)に掛かる懼れがある。
靴底のスパイクを思わせる造りは、殆ど役に立たず、苔(こけ)の生えた岩の上や、濡れた石や岩の上では滑り易く、転倒する懼れがある。
力王製の布地下足袋が930円前後であるのに対し、上記の地下足袋はこれまでの地下足袋を改良した跡があるにもかかわらず、2800円前後もする高いものである。三倍強の値段でありながら、山行きには、殆どその長所が発揮できなかった。また力王製に比べ、重くて、軽快性がなく、足の裏の拇趾球(ぼしきゅう)を中心とした動きが出来ない。

 このような結果から、山行きの地下足袋は、これまで通りの鳶職などが使用している「力王製」の布地下足袋が優れていることが分かりました。
 但し、「13枚小ハゼ」の地下足袋は、小ハゼを一つ一つ止め、履くのに時間がかあり、この時間が掛かった分だけ、山行きには逆に安全料とでもいうのでしょうか。何事も、時間を掛けなければ、良い結果は生まれないようです。

「力王製」地下足袋の表
「力王製」地下足袋の裏


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