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大東流の基本となる日本刀の操法

陰陽乱斜刀
(いんようらんしゃとう)

合気二刀剣/二刀対一刀の合せ

●二刀合気

 二刀合気の躰動は、多敵と戦う際、重要な働きをする。この躰動の中には、術者が動きべき想念の総てが含まれている。二刀合気は、術者が左右に同じ長さの剣を持ち、左右を同じように動かすのではなく、各々の独自の変化(陰陽の変化)によって敵の動きを封じ、また、次々に制していく。従って合気道のように、左右対称の、技の掛け捕りではない。所謂、「合気の掛獲」であって、柔術の左右裏表ではないのである。

 一般に合気道と言えば「相手の力を利用して投げる」等と称され、「纔かな力で敵を倒すもの」と思われているが、あくまでこれは素人考えであって、相手の力を巧みに利用し、崩れた状態から技を掛ける点に於ては柔道も全く同じであり、これは合気道の専売特許ではなく、更に厳密に言えば、これは正しくない。
 「相手の力」を利用する場合、相手が常に行動していなければならない。行動の無い相手に対し、これに技を掛ける事が出来ない。従って、大東流は相手が動くように陰陽の変化を用いて敵を動かし、吾が術中に填めるのである。

 さてこれを注釈する前に、植芝合気会系も含めて大東流や琢磨会等は、総纏めで「合気道」と呼ばれる事がある。事実、福島県霊山神社の境内には「全国合気道発祥の地」という碑が立っているし、一般人には大東流も合気道も区別が付かず、十把一からげに合気道と見なされる事が多い。
 そして一般には、孰れも「合気」を名称としている為、大東流も合気道も区別が付かず、同じように映るのである。従ってその修行法も同一と思われ、そこに存在する手順や技術用語までが同じものである、と想像されがちである。

 しかしこれらは体系的な流れや、歴史観、武術思想からも天地の差ほど異なるものである。それは二刀剣を持って修行する事を知らない合気道と、二刀剣を持って修行する事を、多敵の戦いに於て重視する大東流とではこの空間における攻防法、つまり「制空圏」の考え方に違いが出てくる。

 合気道は徒手を以ての、円運動の範疇にあり、大東流は徒手を更に延長した二刀剣の中に、その捉えた敵への対処法がある。従ってその制空圏は徒手を以ての、前後・左右・上下・斜め前・斜め後だけの八方向だけではなく、これに延長という二刀が加わり、これが多敵之位における「合気八方」になるのである。そしてこの二刀には己の手足が血の通った生き物のように延長されて、多敵で有効な制空圏を収めるのである。

 さて次に、制空圏に迫ろう。
 好戦的なフルコン系空手家達は、よく制空圏を口にする。それは接近戦等を主体とする柔道や相撲等に比べて、打撃系の格闘技の方が制空圏が拡いからだと言う理由である。だから近付く敵には防御的本能と格闘本能が働き、つい手足が出て、好戦的になると言うのである。しかし幾ら制空圏が広いと言っても、高々手足の付け根を軸にした2メートル前後である。もし制空圏の広さを言うのであれば、槍や長刀(なぎなた)の修行者のそれは、その制空圏が打撃系に比べて、如何程の比較になるのであろうか。
 そして剣(二尺三寸程度の木刀)対長刀(七尺前後の薙刀)の試合からも分かるように、長い得物(武器)程、効果が大きいのである。

 打撃系は制空圏が拡いから、他人に接近されると格闘本能から好戦的になる(いわゆる喧華好きと言いたいのであろうが)、しかし柔道のような接近戦を主体とする格闘技は、接近が主である為、人に近付かれてもこれを嫌い、射程距離内の意識が薄いとするのは、打撃系愛好者の独りよがりとも感じられる。
 もし制空圏の事を取り上げるのなら、日本刀を持って斬り合いをする激剣や、試刀術を修行して居る修行者の制空圏は打撃系よりも狭いと言うのであろうか。しかしこれらの修行をして居る人は、打撃系の愛好者に比べて慎み深く、好戦的で傲慢ではないが、一体この差は何処からくるのであろうか。

 また打撃系の愛好者の中には、猟銃を趣味にしたり、海外での拳銃試射を愛好する人が多く、自らの徒手空拳に添えて、何故拳銃試射を愛好するのであろうか。この考えに固執した連中は、特にフルコン系空手を愛好している人が多い。この根底には試合あるいは挑戦に於て、何が何でも勝たなければならないと言う残忍な思想があって、万一負けたら相手を殺す、と言う意図が含まれているようにも思える。

 最早こうなると、武士道や武技や人命尊重の範疇では考えられなくなり、日本刀やその他の刃物に対して、飛道具で対抗し、一時の激情で、負かされた相手を何が何でも倒すと言う、暴力的な決着への魂胆が見え隠れしているようだ。また此処に見えざる遺恨が生まれ、因縁を限りなく悪くして行く方に、己の魂を投じなければならなくなる。

 格闘技で言う制空圏。それは徒手空拳の場合、高々前後・左右の二メートル前後の事であり、ジャンプを含めても三メートルには満たない制空圏である。それは日本刀の制空圏に比較して適うものではなく、また槍や長刀の比ではない。

 さて再び二刀剣に戻ろう。二刀合気は左右に各々同じ長さの太刀を持つ。十六世紀の戦国時代には、これは「矢払い」の為に使われたとも言うし、「多敵に対峙した攻防法」とも言われている。要するに合気八方の乱斜刀であり、自らを戦いの中心に置いて、次々に敵を躱すのではなく、敵の集団の中に斬り込み、敵を意の儘に動かして、勝ちを収める空間を作るのが、合気二刀の制空圏である。

合気二刀剣/組打

 それは丁度、球を成す、雪達磨の「転がりの威力」によく似ている。転がり落ちる周囲の、何もかもを巻き込んで、自らは益々膨れ上っていく、あの構図である。その回転の威力で、周囲は次々に巻き込まれていくのである。これが二刀合気を用いる場合の、乱斜刀のイメージである。

 武術はその武技が何をイメージし、その次元が何処にあるかで異なってくる。次元が低く、力業を何処までも押し通さなければならない武技はその範疇で、地獄のような肉体を駆使する、いわゆる筋トレと称する反復練習に明け暮れなければならないし、次元が高度になれば滅び行く肉体を脱して、霊的なものに委ねて《半身半霊体》に、より接近する事が出来る。二刀合気は合気二刀剣をマスターする為の制空圏把握の、前技ともいうべき想念法である。

 

●合気二刀剣・陰陽乱斜刀 旋回刀操法

 この想念法を更に具体的にしたものが、「合気二刀剣・陰陽乱斜刀」である。
 乱斜刀は左旋と右旋が交互に繰り出される剣の技法であり、剣線が交互に螺旋を描くようにして動き回る動作である。

合気二刀剣・陰陽乱斜刀

▲合気二刀剣・陰陽乱斜刀(クリックで拡大)

 この乱斜刀は小手先や腕先にあるのではなく、あくまで腰から下の下半身に伎倆の要があり、正中線と正安定をはかることは言うまでもない。
 左右の螺旋を激しく繰り返すので、腰が安定していることはいうまでもなく、肝心なのは膝の安定であり、これは「弓身之足」を以ってこれに回帰される。そして上半身の動きは、下半身の重心の安定の上に成り立った結果の延長であり、二刀乱射を以って振り廻すだけが乱斜刀の極意ではない。要は下半身にあり、その移動は足運びである。

 また乱斜刀の繰り出しは「拍子」であり、拍子がズレれば、呼吸が狂い、呼吸が狂えば吐納が乱れ、吐納が乱れれば陽気の循環が滞り、集中力に大きな障害が現われることになる。
 そのような愚を抑えるためには、呼吸の長短を「気吹」によって整え、吐気と吸気を逆にした逆腹式呼吸で調整した呼吸を行い、速やかに重心を移動して中心力を一旦左足に戻せば、再び拍子を作る事が出来る。これを「陰陽乱斜刀」と謂い、西郷派大東流の秘伝とされている。


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